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私の好きな小説家のひとりが内田康夫さんです。
でも、内田氏の作品と私の出会いは、不純(?)な動機が元でした。
今から何年前かは深く考えないことにして、「天河伝説殺人事件」が映画化されたときまでさかのぼります。
私は試写会に応募しました。なぜなら、主演が榎木孝明さんだったから。
私は、彼のようにすらりとした好青年が好きなんです。試写会とあらば舞台あいさつがあるはずです。ということで、ぜひ実物にお目にかかりたかったのでございます。

おかげさまで試写会が当たりましたので観にいきました。
私が着いたときには映画館には大勢の観客がいて驚きました。すでに満席で、立ち見もぎっしりでした。
私は人ごみが苦手なので、会場の後ろのほうで見ることにしました。

時間になるとステージに司会者が現れて、舞台あいさつする人を紹介していきました。女優の財前直美さんは何かの都合でこれないと説明していましたけれど、私は榎木さんさえ来てくれれば問題ありませんでした。
私は、後ろのほうからとはいえ、榎木さんのあいさつをしっかり見れたので満足でした。

そのあとは、当然のことながら映画が始まりました。
お決まりのパターンにのっとり光彦が警察に連行されるところまで進んだころ、私は具合を悪くしました。

私は子供時代からひどい貧血でした。
たとえば朝礼で校長先生の話のときに倒れる生徒がひとりくらいいたと思いますが、それが私でした。
館内は人だらけで空気が悪かったし、ずっと立ちっぱなしでしたから、貧血にならないわけがありませんでした。
私は倒れる前に廊下に出ました。映画が途中で無念でした。

私が廊下にたたずみ深呼吸をしていたら、なんとなく辺りがざわつきはじめました。
通路には、私のほかにもけっこう人がいました。
私の小耳が、「今から榎木さんがここを通るんだって」というセリフをとらえました。

なんですって!

もしもほんとうなら貧血ばんざいです。


そんでもってほんとうでした。
もう二度と会えないと思っていた榎木さんが、通路をやって来ました。
オーラというものでしょうか――彼はとてもきらきら輝いていました。

すごく背が高い!
歯が白くてまぶしい!


私はただただ、目の前を通過していく彼を見つめていました。



それから現実に戻った私は、貧血で映画が観れなかったかわりに近くで榎木さんを見れたものだから、それは上機嫌で家に帰ったのでした。

天河伝説殺人事件天河伝説殺人事件
内田 康夫

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